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宮崎の紹介

「世界農業遺産」
持続可能なムラであるために

世界農業遺産
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世界農業遺産

農林業を通じた食料生産と地域コミュニティ

世界農業遺産

「世界農業遺産」に認定された里山

九州の中央部、宮崎空港から車で2時間北上した場所にある「高千穂郷・椎葉山エリア」は、2015年に国連食糧農業機関(FAO)から「世界農業遺産」*に認定されました。

「この道 大丈夫ですか?」

2015年にこのエリアが「世界農業遺産」に認定されてから一気に増えた視察訪問者。認定対象となった山間部へ視察者を案内する農道の道すがら、正しいルートでもその道の細さに不安を感じて、つい聞いてしまうという決まり文句のような、地元の人からすると笑い話のような問いかけです。

急峻な山々に囲まれたこの地域は、東九州自動車道が開通する数年前まで、宮崎の中心部である宮崎市街地まで車で3時間半から4時間かかったチョットした秘境で、関東の交通事情で言えば、都心から長野白馬山まで行けてしまう所要時間でした。ここは、少子高齢化による労働力不足と就労機会不足の両面を合わせ持つ典型的な中山間地域。「課題と向き合い、どう解決していくか」、「地域の何を守り、大切に受け継いで行くか」。全力で向き合わなければ、地域コミュニティの維持ができない状況です。それらに真正面から全力で戦っているのがこの地域です。

世界農業遺産

神々と一体化した地域コミュニティ

このエリアには、日本の代表的なスピリチュアルスポットである伊勢神宮に鎮座する日本人の祖「天照大御神(あまてらすおおみかみ)」にまつわる神話や史跡が数多く残り、地域住民の暮らしは、「神様」や「神楽」を中心に構成されています。

文献に残っているだけでも700年以上前から続くこの地域の「神楽」は、神様と五穀豊穣に対して感謝し、厳しい自然に対して祈りを捧げる「神事」で、山間部に住む地域住民のつなぎ目としてコミュニティネットワークのベースとなっています。

高千穂郷・椎葉山エリアは、この「農林業・神楽文化・地域コミュニティ」を大切に守りながら一体的に経済的発展と文化的発展をしていることから、一度訪れた観光客を魅了する注目エリアとなっています。

高千穂町役場から車で3分の場所にある高千穂神社では、大雪や台風でない限り夜8時から予約なしで神楽を鑑賞することができます。毎晩多くの観光客を集めるこの神事は、50年近く前から365日毎晩執り行われています。これは、この地域が外に向けて自分たちの文化を発信し続けることの大切さと楽しさを理解してきたからできたことかもしれません。

世界農業遺産

厳しい自然環境の中で暮らしていくために受け継がれてきた共助精神

厳しい環境下で暮らし続けるには、日々工夫が必要です。原材料を含め食料の手作り・備蓄は当然のこと、近隣住民との声かけや助け合い・分かち合いは、農山村地域の生命線となります。急峻な山々が続く高千穂郷・椎葉山では、 「地域活性の担い手は地域住民一人一人である」という意識が強く、地域の絆である「神楽」を大切にしながら、新たなつながりを積極的に作ろうとするスピリッツがあります。また、農業の担い手不足から伝統的な農法継承への危機感も強く、時代の変化を感じながらも、ありのままの自分たち・風景・農業をどう後世へ受け継ぐか、絶えまない努力と工夫をしています。その努力を怠れば、マチは、ムラは廃(すた)れてしまうのです。その努力が「世界農業遺産」の認定へと発展しました。

今では、宮崎空港から約2時間で日之影町や高千穂町まで行くことができます。五ヶ瀬町・諸塚村・椎葉村へもそこから30分程度で行くことができます。人々の生活の息吹が聞こえる緑のヒーリングスポットが点在し、日本のはじまりとされる遺跡や神社も数多くあるこのエリアは、なぜか人々の心を捉え、1度行くと何度も足を運びたくなる場所といわれています。

*世界農業遺産は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形づくられてきた伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ、生物多様性などが一体となった世界的に重要な農林水産業システムを国連食糧農業機関(FAO)が認定する仕組です。
(農林水産省HPより)

阿部健一氏
インタビュー 総合地球環境学研究所 研究基盤国際センターコミュニケーション部門 部門長・ 教授
阿部健一 氏

「世界農業遺産」認定に向けた国連食糧農業機関(FAO)の調査団メンバーであった、阿部健一氏に、高千穂郷・椎葉山エリアの魅力について伺いました。

「高千穂牛の美味しさ」、「原木栽培の椎茸の美味しさ」、「伝統的釜炒り茶の美味しさ」、「棚田の美しさ」、どれも日本国中に一昔前にあった農業が、静かに展開されているだけのように見えるこの地域。ただ、一見では見えにくいものを凝視すると、この地域の固有性が浮かび上がってきます。

山々に広がる棚田を見つめてみる。すると、見事な風景の基礎となる山腹水路(さんぷくすいろ)が浮かび上がってきます。パワーショベルやダンプカーなどの重機のなかった明治時代に建設された数十キロの水路が山腹(さんぷく)に延びています。この水路により、米はおろか麦も作れなかったこの地域に稲作をもたらしました。

また、このエリアの農業は、小規模複合農業が基本です。地元農家は、「牛を飼い」、「米を作り」、「花を育て」、「こんにゃくを作り」、「わら細工」を作って販売するなど、少しずつ色んなことをします。ここには、生産効率を図り、経済性を追求する近代農業とは区別すべき持続可能な多角農業があります。家族がそれぞれできることをする。長期のかかわりの必要な山仕事や冬季の農閑期に行われる椎茸栽培は、唯一の資源といってもいい家族労働を最大限に活かす工夫です。

また、この地域の特異性について次のように語ってくださいました。

象徴的なのは「神楽」です。地球の全食糧生産力の7割から8割は、小規模農業が支えています。その小規模農業の共通点は、自然への感謝と畏怖をあらわす「神事」「祭り」です。「神事」や「祭り」は、自然と関わってきた世界中の農業で基礎となっています。それがここにはしっかりと「日常的」に根付いています。先祖代々守ってきた「目に見えない」自然と生業の支柱を、この地域で暮らすための糧(かて)とするほどのエネルギーを持って、世代をつないで全員で地域に残す。そして、その姿が少しずつ変わることに何の躊躇も持たない潔さ。農業の多面的機能を身につけた未来に向けた農業がここにはあり、知れば知るほど魅力のある地域なのです。